今回はなにかしら突出した要素のある映画を紹介します。「突出した要素」というのは、映像が過激だったり、ストーリーが狂っていたり、設定が滅茶苦茶だったり、タブーを破っていたり、といったことです。紹介する作品それぞれ何かしらにおいて異様なのですが、一つだけ共通して言えるのは、テレビでは絶対に放映不可能な内容ということです。それは放送コードに抵触するだけではなく、単純に「誰が理解できるの?」といった内容のものも含みます。
ナコイカッツィ
あらすじ:グローバル化したテクノロジーと暴力に支配された現代世界を描いたビジュアルモンタージュポートレート。
原題:Naqoyqatsi
制作年:2002年
カッツィ三部作の最終作ナコイカッツィは、CG や実写にエフェクトを掛けたモンタージュ。ほとんど生の映像は登場しない。率直な印象としては近代人類史をデジタルコーティングして垂れ流しているという感じ。映画というよりかアートっぽい映像作品で、昔の感度高めの服屋がディスプレイで掛け流していそうな映像。
ラスト・オブ・イングランド
あらすじ:散文というより詩に近い言葉で、祖国の衰退についてアーティストが個人的に論評。サッチャー政権下のロンドンについての暗い瞑想。
原題:The Last of England
制作年:1987年
デレク・ジャーマン監督作。ティルダ・スウィントンがチョロッと出演。明確なストーリーは無い。荒廃した地、軍人、幸福そうな家庭、それらが織り交ぜられた映像集といった感じ。
ルミナス・プロキュリス
あらすじ:取り巻き女が、2 人の若者を、幻想的、奇怪、両性具有的、神秘的、精神的、そして性的な小場面のシュールなのぞき見ショーへと導きます。
原題:Luminous Procuress
制作年:1971年
ぶっ飛んでますな。宗教団体というか、何らかのコミュニティに訪れた男性 2 人が、めくるめく異形な世界を体験するという流れ。映像的にもいかれているけど、ぶっ飛んでいるのは、終始流れている BGM というかエフェクト音というか、場面に合っているのか合ってないのかも判別不能なサウンドだ。役者のセリフを掻き消すサウンド達。この宇宙人が寄って来そうな音が邪魔で、ちょっと正気じゃ観てられない。
エル・トポ
あらすじ:謎めいた黒服のガンマンが神秘的な西部の風景をさまよい、さまざまな奇妙な人物に遭遇する。
原題:El Topo
制作年:1970年
アレハンドロ・ホドロフスキー監督の代表作。監督・脚本・主演・音楽はホドロフスキー監督自身が務めています。有名な作品ですが、ぶっ飛んだ内容です。フリークス多数登場ゆえ、今のオモテ向きメディアでは放映不可能ですね。
ホーリー・マウンテン
あらすじ:腐敗し、貪欲に満ちた世界で、強力な錬金術師が救世主的な人物と 7 人の物質主義者を聖なる山に導き、そこで悟りを得ることを望んでいます。
原題:The Holy Mountain
制作年:1973年
エル・トポをさらに過激にしたような内容。冒頭、女性 2 人をいきなり丸刈りにしたり、義眼を取り出して幼女に渡す爺さんがいたり…。エル・トポを観た流れで観よう。
末世肉体
あらすじ:2 人の兄妹は、食べ物と住処を求めて何年も廃墟となった街をさまよった後、最後に残った建物の 1 つにたどり着きます。その中で、兄妹は外の世界で生き残るために危険な提案をする男に出会います。
原題:We Are the Flesh
制作年:2016年
近年の作品ながら、エログロ的にぶっ飛んでいます。性器どアップなんて当たり前。主観のフェ◯映像なんて、普通の映画で初めて観たと思います。修正の無い輸入盤で観ないと何かしらが伝わってくる量が半減するでしょう。汚らしいオッサンが多数出てくるし、もう、ヌメヌメのグッチョグチョです。
内なる傷痕
あらすじ:砂漠。女(ニコ)が男(フィリップ・ガレル)と歩き続けている。女は「私をどこに連れて行くの」と問うが、それに答えず、つかず離れず歩き続ける男。荒涼たる大地。女は少年が引く馬に乗っている。時に滝、時に牧人のかたわらで、女は人生と愛について言葉を発し続ける。
原題:La cicatrice interieure
制作年:1972年
フィリップ・ガレル監督・主演。ヴェルヴェッツのニコを主役としたポエミーで前衛的な作品。もう、いかにも当時のモダン・アート全開って感じの映像作品。エンタメと対極にあるような尺の使い方なので、一体何を観たんだろうと思われる方も多いことだろう。
ソドムの市
あらすじ:第二次世界大戦中のイタリアで、4人のファシストの放蕩者が9人の少年少女を集め、120日間の肉体的、精神的、性的拷問を加えました。
原題:Salò o le 120 giornate di Sodoma
制作年:1975年
ピエル・パオロ・パゾリーニ監督のイタリア・フランス合作映画。とんでも系の映画紹介だと欠かせない作品でしょう。閉鎖空間にて権力者が行う少年少女への過激な虐待行為を描いたその内容は、監督であるパゾリーニ殺害事件へと発展してしまう。内容だけ見ればド変態で不快きわまりないのだが、映像があまりにも綺麗過ぎて何か重厚な社会派作品だと錯覚してしまう。
キッズ
あらすじ:スケートをしたり、お酒を飲んだり、タバコを吸ったり、処女を奪ったりしながらニューヨーク市内を旅する、10代の若者たちの一日。
原題:Kids
制作年:1995年
ラリー・クラーク監督、ハーモニー・コリン脚本。クロエ・セヴィニー主演。若者の日常に焦点を当てて映像化したことに意義がある。90年代にこそ撮られるべくして撮られたような作品。素人をかき集めたからこそ滲み出る日常感を映像に封じ込めることに成功している。ブレット・イーストン・エリスの小説のような不安感を覚える作品。
ベニーズ・ビデオ
あらすじ:暴力的な映画に夢中な14歳のビデオ愛好家が、自分でも暴力的な映画を作って両親に見せようと決意するが、悲劇的な結果を招く。
原題:Bennys Video
制作年:1992年
ファニーゲームが有名なミヒャエル・ハネケ監督の劇場映画第 2 作。陰鬱な内容ではあるけど、今回紹介するなかでは、ぶっ飛び度は低め。というのも、なかなかにシリアスに感じるストーリー。現実味のある脳にエラーがある少年を描いているため、展開的にそう奇抜でもない。ただ、好んで観る必要も感じない。
砂丘
あらすじ:1960 年代後半のアメリカで慢性的な内乱が続いたとき、カリフォルニア州デスバレーのザブリスキー ポイントで、理想主義者の若者と人類学の学生が出会う。彼らは埃っぽい土地で愛し合い、奔放な関係を築き始める。
原題:Zabriskie Point
製作年:1970年
ミケランジェロ・アントニオーニ監督作。イタリアの映画監督がアメリカでアメリカン・ニューシネマを撮ったらこうなった。映像や雰囲気は抜群なのだが、イマイチなんだかよくわからない展開。そしてラストの大爆発がとにかく凄まじい。同監督では「欲望(1966)」もぶっ飛んでて好き。
ザ・ルーム
あらすじ:サンフランシスコでは、愛想のいい銀行員の一見完璧に見えた人生が、彼の嘘つきな婚約者が彼の親友と情熱的な情事を始めたことで一変する。
原題:The Room
制作年:2003年
制作者の意図しないカタチでカルト化したロマンス映画。2003 年公開作だが、どう見ても 80 年代の絵面なのがまずウケる。製作・監督・主演は謎の大金持ちトミー・ウィゾーが自己満のために行っている出自からしてぶっ飛んだ作品。大体どのシーンも同じ部屋であるところや、その場で考えたような脚本、主演の演技力の欠如など…真面目に作っているのがわかるだけ、ぶっ飛んでいるなぁと思う。コメディじゃないのにコメディ映画より笑えます。本作の制作過程を映画化した『ディザスター・アーティスト』もオススメです。
ピンク・フラミンゴ
あらすじ:悪名高いボルチモアの犯罪者であり地下組織の人物であるディヴァインは、彼女を辱めてタブロイド紙が与える「生きている中で最も汚い人物」という称号を奪おうと熱心に企む卑劣な夫婦と対決する。
原題:Pink Flamingos
制作年:1972年
ジョン・ウォーターズ監督、ディヴァイン主演のカルト・コメディ。一作前の「 Multiple Maniacs 」もお下劣でどうしようもなかったが、今作も同様に意味のわからないパワーに満ちている。下品を通り越して汚すぎるので、誰かと一緒に観るなら必ず相手を選ぼう。ノーカットで犬がこいた糞を頬張ったディヴァインにドン引きだが、さすがに顔が引きつっているように見えるのが微笑ましい。
スウィート・ムービー
あらすじ:「最も処女」コンテストで優勝した後、ミス・カナダは裕福な牛乳王と結婚する。しかし、彼女はすぐに結婚生活から逃げ出し、甘美さと無秩序に満ちた周囲の世界を体験する。
原題:Sweet Movie
制作年:1974年
ネタバレになるが、 Wikipedia に書かれてた以下の内容がそのまま本作の全てなので全文転記する。
処女であるかどうかを認定するミス処女コンテストのワールド大会に優勝したヒロインが、資産家ミスター・アプラナルプと何故か結婚する事になるが、財産の問題で追い出される羽目になった彼女はスーツケースに詰められ、パリに送られ、ついた先でエル・マッチョとエッフェル塔でセックスをさせられ、次に訪れた銀河コミュニティーでは糞尿まみれの体操を見せられ、泣きながら逃げ出してしまい、一方「サバイバル号」の船長アンナ・プラネッタは、自転車に乗った水兵と愛し合いながらもヒロインがてんやわんやな目に遭っている間に、子供を誘拐しては船に乗せて殺して行き、一方で彼女は何故か CM 撮影のために全身チョコレートを浴びる・・・。
カルネ
あらすじ:馬肉店を営む男は口がきけない娘と2人暮らし。娘は初潮を迎え、彼女の服に付いた血を見た男は娘が暴行を受けたと勘違いして、衝動的に疑わしき若者を殺そうと家を飛び出す。
原題:Carne
制作年:1991年
ギャスパー・ノエ監督の初期中編映画。この監督はぶっ飛んでいるというより、ただただ問題作とされる作品が多いという印象だ。とにかく過激な作風なのだが、そんな中でも個人的に最初に観た本作を挙げてみた。ぶっちゃけ続編の『カノン』や『アレックス』『 LOVE 』のほうが、ぶっ飛んだ内容だけど、若かった私には唐突な馬の屠殺シーンに驚愕したのだった。
ポゼッション
あらすじ:長い単身赴任を終え、妻アンナのもとに戻ったマルクは、妻の冷やかな態度に傷つく。その不倫相手と対峙したマルクだが、彼=ハインリッヒは”第三の相手”の存在をほのめかす……。
原題:Possession
制作年:1981年
とにもかくにも、イザベル・アジャーニの演技の凄まじさよ。映画史に残る壮絶な発狂シーンは勿論のこと、それ以外の心が壊れた感じのスレた夫婦の演技も素晴らしい。狂気地味た不倫嫁役と、天使のような保母さん役の 1 人 2 役やっていて、どちらも異なる美しさ。時期的にも映像的にもイザベル・アジャーニが最も美しい作品。物語自体はホントに奇妙で説明が難しい内容です。
カリギュラ
あらすじ:古代ローマの最も悪名高い指導者の一人、カリグラのシーザーへの昇格とその後の統治をドラマ化した作品。カリグラの野心、陰謀、倒錯と退廃、残忍さと狂気を見ることができる。
原題:Caligula
制作年:1979年
監督はポルノ映画界の巨匠であるティント・ブラス。主演はマルコム・マクダウェル。「カリギュラ効果」の元ネタである第 3 代ローマ帝国皇帝カリギュラを描いた作品。内容としては、最も金の掛かったポルノと言ってもいいかも。ここまでエキストラ使ってエロスを描いたことがぶっ飛んでる。
アンチクライスト
あらすじ:悲しみに暮れる夫婦は、傷ついた心と悩ましい結婚生活を修復しようと、森の中の小屋に引きこもるが、自然の成り行きで事態は悪化の一途をたどる。
原題:Antichrist
制作年:2009年
ラース・フォン・トリアー監督、ウィレム・デフォーとシャルロット・ゲンズブール主演。性交中に子供が事故死し、精神が壊れた妻に振り回され暴力を振るわれる夫の苦悩を描いた鬱映画。この監督の場合、その作品ほとんどが鬱な内容なので、どういう人達が好むのか知りたいところだ。ぶっ飛び度で言えば舞台セットだけで 1 本映画撮っちゃった『ドッグヴィル』のほうが上か。
死霊の盆踊り
あらすじ:ホラーストーリーのインスピレーションを求めて墓地へ車で向かうカップルは、踊る死体に遭遇する。
原題:Orgy of the Dead
制作年:1965年
かの有名なクソ映画。それをわかって構えて観れば、そこまで非道い作品でもない。だが、決して観ることを推奨するわけでもない。圧縮したら 20 分くらいの内容を 90 分もかけて観させられるのだ。途中、突っ込みでもいれなきゃ観てられないでしょう。夜の帝王のカンペをガン見する目線や、囚われた女性が踊り子としても出演する使いまわし、まったく画質の異なるヘビの映像の差し込み、などなど突っ込みどころをどれだけ見つけられるかに掛かっている作品だ。この作品がここまで流通していること自体がぶっ飛んでいる。
欲望の旅
あらすじ:アメリカ人写真家のデイビッドとロシア人の恋人カティアは、写真撮影のための場所を探している。日中、彼らは最も荒々しく奇妙な砂漠の風景の中をドライブするが、運が尽き始める。
原題:Twentynine Palms
制作年:2003年
ひたすら色んな場所で性交し、痴話喧嘩を繰り返すような異国籍の 2 人に唐突な暴力が降りかかる。胸糞というか酷い鬱展開だし、決してオススメはしない。ちょっとした衝撃を受けたい人向け。
まとめ
近年でもイカれた映画は生まれているんだろうけど、何かしら 70 年代のそれらとは軸が違うように思います。色んな方面に未開だった頃は、様々な人が新しい何かを映像化しようとしていたのでしょうが、現代ではそういった下敷きがどうしても枷になってるし、商業的にもっとシリアスにならないと、作る意味がないのでしょう。自己表現を公開する環境は今のほうがあるはずなのに、面白みのない方向に進んでいるような気がしてなりません。
あ、今後も作品は追加していきます。まだまだ観ていない作品でぶっ飛んだ内容のものはあるし、観たけど忘れてる作品もあるだろうし。あと、あえて外している作品も多数あります。