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映画「 TITANE/チタン(2021)」の面白さをネタバレ無しで語る

観終わったあと、誰かに話したくなる映画を紹介しています。
そんなわけで、今回はフランス映画「 TITANE/チタン 」です。まだ観ていない方に向けて、ネタバレ無しで書いていきます。

ネタバレなしですが、設定説明のため序盤の展開は明かします。

基本情報

2021年製作/108分/フランス・ベルギー合作
配給:GAGA
劇場公開日:2022年04月01日
監督/脚本:Julia Ducournau
出演:Agathe Rousselle、Vincent Lindon、Garance Marillier、Lais Salameh、他

監督/脚本は「 RAW 少女のめざめ 」でデビューした女性映画監督ジュリア・デュクルノー。この監督、影響を受けた映画監督にデヴィッド・クローネンバーグを挙げています。身体の破壊・変質・再生といったような描写にその影響が垣間見えるかもしれませんね。そんな監督の長編 2 作目である本作は第 74 回カンヌ国際映画祭にて最高賞であるパルム・ドールを獲得しています。

頭蓋骨に埋め込まれたチタンプレートが引き起こす[ 突然変異 ]。

常識を逸脱した先にある映画の〈 未来 〉を受け止められるか。

──日本公開時キャッチコピー

あらすじ

主人公であるアレクシアは変わっている。幼少期、車の後部座席に座っていても、エンジン音の高鳴りのような唸り声をあげ、運転する父親の座席を後ろから蹴りつけるような何処か変わった子なのだ。顔も常に不満げだ。結局、シートベルトを外したことを注意しようとした父親の運転操作ミスにより車はスピンしバリケードに激突。その事故によりアレクシアは頭部に重症を負ってしまい、頭蓋骨補強のために「チタン」製のプレートを埋め込まれることになるのだ。退院したアレクシアが最初にしたのは、事故した車に愛おしくハグすることであった。

成長したアレクシアは、モーターショーでセクシーなダンスを披露するパフォーマーとなっていた。ここでもまた車が絡んでいる。幼少期から成人してもなお、金属質な物体に執着しているのが伺える。自らの頭蓋の一部と何かしらシンパシーを感じるのであろうか?
ショーを終えて帰宅しようとしたアレクシアは、積極的なファンに付きまとわれる。唐突にその彼を、手慣れたようすで殺害する。突然である。幼少期から一気に時間が飛んでいるので、それまでに何があったのか知り得ないが、初めての殺人とは思えない手際の良さだ。殺したあとも動揺していない。

自らの身体に付着した男の唾液を洗い流すため、シャワーを浴びていると強烈に扉が叩かれる。誘われるようにシャワールームの外に出ると、1 台の車がヘッドライトを光らせて佇んでいた。無人である。そのマッスルカーのボディラインを愛撫し車内へ入るアレクシア。そこで、その車と激しく性交する。昇りつめるアレクシアに呼応するように跳ねる車。
翌朝アレクシアは股に違和感を感じて目覚めるが、さほど気にせず二度寝に入る。しかし、股間からは真っ黒いオイルが滲んでいるのであった。

車に妊娠させられるというファンタジー。彼女自身が自らを金属だと思っていたから起こり得ている脳内フィクションだろうか…。ここまでも、そしてしばらくはスリラー映画らしい展開が続く。先の殺人の様子や、これからアレクシアが起こす行動からも、彼女は相当病んでいることがわかる。しかし明確に善悪の区別が付いていることは、自ら鼻をへし折って(痛い!)変装してまでも逃亡しようとすることからも伺える。

破滅的な生き方をしているようで、「 生 」への執着は人並み以上にあるアレクシア。失踪者に化けるため自らを「 男 」に偽装する。その失踪者の父親であるヴァンサンと緊張の対面。見た目を息子に似せたとはいえ、さすがに実の父親であるヴァンサンにそれは通じないだろう。しかし何故だかイケた。思惑通りヴァンサンの元に転がりこんだことにより、アレクシアの運命は予想外の方向に進んでいく。

膨らみ続ける腹を隠しながら、ヴァンサンの元で「男」として生活していくアレクシア。レスキューの隊長であるヴァンサンのもとには多くの隊員がおり、アレクシアも流れでその一員に。親子を演じている二人の関係はどうなっていくのだろうか。

クラッシュ(1996)との近似性について

どちらも自動車がキーアイテムであり、監督自身がデヴィッド・クローネンバーグの影響を公言していることから、その近似性についてよく語られる。しかし、車を絡めてはいるが性の対象はあくまでも人間であるクラッシュと、生身の人間に対して性や愛の表現が出来ず、それらを車に向けた本作では大きく異なるように感じた。画面のトーンや演出自体もそれこそ似ていない。唯一似ているのは冒頭にも書いたが、身体の破壊・変質・再生といったような描写のみである。

まとめ

序盤から中盤に掛けてのスリラーな展開は、エロスとバイオレンスが入り乱れ、無軌道に見えるアレクシアの向かう先に引き込まれていきます。幼少期を見るかぎり少なくとも父親とのあいだに愛は感じず、明らかに空虚、心がどこにも無いかのようである。唯一、車に対してのみ、本来であれば親に抱く温もりを感じているのだ。金属の塊にだ。自らも金属を埋め込んだ彼女がその身に宿したのは、果たして何なのだろうか。最期まで観れば明らかになります。

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